面接をしていると、学生さんが「志望理由」を語る場面に必ず出会います。そこで私はよく、心の中でこう思います。
「その気持ちは分かるけれど、もう一歩“準備”が見えてほしいな」
就活において志望理由は「熱意」や「価値観」を伝える大切な場面です。ですが、そこで語られる内容が「なんとなく将来性があるから」「安定していそうだから」といった一言に終わってしまうと、面接官はどうしても物足りなさを感じます。もちろん、それが本心であること自体は悪くありません。ただ、その言葉を支える「行動」や「背景」が見えてこないと、説得力が弱くなってしまうのです。
「これから伸びる業界だからです」では足りない
たとえば、学生さんからよく聞く言葉に、
「これから伸びる業界だから志望しました」
というものがあります。将来性を感じて挑戦したいと思うこと自体は立派です。ですが、もしそれだけなら「誰にでも言える理由」に聞こえてしまいます。
逆に、こう続けられるとどうでしょう。
「将来性のある分野だからこそ、自分もそこで社会に役立つ仕組みを作りたいと思っています。そのために、資格の勉強を始めたり、業界にいる先輩に話を聞いたりしています」
同じ「将来性」に触れていても、背景に「社会貢献への意識」と「具体的な行動」があるだけで、ぐっと説得力が増すのです。
面接官は“準備の痕跡”を探している
私たち面接官は、学生さんの全てを知ることはできません。数十分のやりとりで、その人の人柄や考え方、姿勢を見極めようとします。だからこそ「準備の痕跡」が見えると安心できるのです。
準備といっても、大げさなものではありません。例えば、
- 資格試験の勉強を始めている(参考書を買って進めている、試験日を決めている)
- 学校の先生や先輩、知り合いなど、その業界に関わる人から話を聞いている
- 志望理由が自分の原体験とつながっている
- 関心のあるニュースや技術を追いかけ、調べて自分なりの意見を持っている
こうした準備の一つひとつは、とても小さな行動に見えるかもしれません。でも、面接官からすると「この人は本気で考えているな」と伝わる大切なサインになります。
「押しつけ」ではなく「選択肢を増やす」
ここで誤解してほしくないのは、「資格を必ず取るべき」とか「原体験がなければダメ」という話ではないということです。就職活動に“正解”はありません。
ただし、行動を起こしている学生と、口先だけで終わっている学生では、面接官に与える印象がまったく違います。準備をしている人は、自信を持って話せるし、深掘りされても具体的に答えられる。結果として面接でも自然と前向きな空気を作れるのです。
私が伝えたいのは「小さな準備を積み重ねることが、結果的にあなたの選択肢を広げる」ということ。資格の勉強を始めたら、その知識が別の業界でも活かせるかもしれません。人に話を聞けば、思いがけない業界や職種に興味が広がるかもしれません。
面接官の心に残る志望理由とは?
最後に、面接官として印象に残った学生さんの例を紹介します。
「子どものころ、家のパソコンが壊れて困った経験がありました。そのとき修理を手伝ってくれた親戚の人の姿に憧れ、いつか自分も人の役に立つ仕事をしたいと思いました。だから今、資格の勉強を始めて、知識を広げています」
特別な経験ではありませんが、きちんと自分の過去と現在の行動をつなげて話せています。この「点と点を線で結ぶ」ストーリーこそ、面接官の心に残るのです。
まとめ:準備はあなたを助ける
「最低限の準備」と聞くと、堅苦しく感じるかもしれません。でも実際は、自分の将来を考えるためのヒントを集める作業にすぎません。小さな一歩でも行動を始めれば、それが志望理由を支える“確かな根拠”になります。
面接官としての本音を言えば――
「あなたが本気で考えて、少しでも動いていること」 その痕跡が見えた瞬間、私たちは安心しますし、もっと話を聞きたいと思うのです。
だからこそ、今日できる小さな準備を始めてみてください。それが、あなたの未来を切り開く力になります。